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大人と違い乳幼児や小児の皮膚は非常にデリケートで、より細やかな注意が必要です。当院にもさまざまな症状で患者さんが来院なさっていますが、その症状は非常に多彩です。皮膚病の診断・治療には、多くの症例を経験し、十分な訓練を受けた皮膚科専門医による診察が必要です。

病名

じんましん(蕁麻疹)

突然体のあちこちにかゆみを伴う蚊に刺されたような発疹が出現して、数時間以内に中に跡かたも残さず消失するのが特徴です。中には半日から1日くらい持続する場合もあります。大きさ形も様々で、1mm程度のものや地図状に拡大してほぼ全身を覆うほどになるものもあります。食物のアレルギーで生じる割合は1〜4%程度と意外と少なく、中には細菌やウイルス感染、血液疾患や膠原病などの内科的疾患に起因する場合もあります。ただし1ヶ月以上続く慢性蕁麻疹では、ほとんどの場合原因を明らかにすることはできません。

じんましんの治療

まずは問診や各種アレルギー検査からできるだけ原因、悪化因子を探し、それらを取り除く、または避けることです。ただし上述のようにほとんどの場合は原因を明らかにすることはできません。薬物療法の第1選択は抗ヒスタミン剤の内服になります。多くの場合は抗ヒスタミン薬の内服のみで効果が認められますが、効果が認められない場合は他の抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤、漢方薬などを併用する場合もあります。原因が特定できず標準治療でも効果が不十分な慢性蕁麻疹の患者さんには生物学的製剤を投与することもあります。この薬はもともと気管支喘息の患者さんに使われていた薬です。抗ヒスタミン剤はヒスタミンというかゆみ成分をブロックする薬ですが、この生物学的製剤は薬ヒスタミンを作り出すために必要なIgEをブロックする薬で蕁麻疹のさらに根本の原因を抑える作用があります。

生活上の注意点

蕁麻疹の増悪因子となりやすい疲労やストレスをできるだけ溜めないようにする、魚介類や肉類はできるだけ新鮮なものをとるようにする、防腐剤や色素を含む食品を控えめにする、などがあります。

小児アトピー性皮膚炎

小児アトピー性皮膚炎は、皮膚科を受診なさる乳幼児・小児の患者さんのなかでも特に多い病気のひとつですが、昔からよくみられるごくありふれた皮膚病です。多くの患者さんは年齢とともに症状が軽くなり、ほとんど症状がなくなることもあります。
以前は、大人になれば自然に治る病気で特別大変な病気とは考えられていませんでした。しかし、近年、アトピー性皮膚炎をめぐって誤った情報、民間療法、その他さまざまなアトピービジネスが宣伝され、多くの誤解と混乱が続いており「アトピー性皮膚炎は大変な病気」との誤った認識が広まってしまいました。こうした現状を改善し、患者さんと家族の生活の質を向上していくには、アトピー性皮膚炎治療に携わる医師の役割が重要で、なによりも患者さんやその保護者と医師の間に良好な信頼関係を築くことが最も大切です。

小児アトピー性皮膚炎の治療の基本

  • 原因・悪化因子の検索と対策

    悪化因子は、アレルギー反応が関係しているものと関係していないものに分けられます。アレルギー反応が関係しているものには、ダニ、ハウスダスト、食物、花粉などの抗原に対するアレルギー、かぶれなどがあります。アレルギー反応が関係しないものとしては、汗の刺激、せっけんやシャンプー、リンス等の科学的刺激、衣類や髪の毛や引っ掻く等の物理的刺激、精神的ストレスなどがあります。これらの悪化因子は患者さんによって異なりますので、アレルギー検査などによって原因検索を行い、可能な限り明らかになった悪化因子を回避・除去することが大切です。
    ※当院では、アレルギー検査として、採血が困難な乳幼児に対して比較的簡単に行えるプリックテストを行っています。

  • 薬物療法

    炎症部位にはステロイド外用薬、タクロニムス軟膏を主に使用し、補助的に抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬の内服を行います。特にタクロニムス軟膏はステロイド外用薬に伴うような皮膚の萎縮や毛細血管拡張といったような副作用もなく、炎症を鎮める強さもステロイドのミディアムクラス〜ストロングクラスと同等ですので、特に顔面、頚部に強い炎症がある患者さんには有効な外用薬です。

  • 紫外線療法(ナローバンドUVB、エキシマライト)

  • スキンケア

    スキンケアの意味には清潔のためのスキンケアと保湿のためのスキンケアがあります。特に皮膚のバリア機能を強化するために保湿剤を使用することは、アトピー性皮膚炎の再発・悪化の防止、寛解の維持のために大変重要とされます。

上記3項目は成人型アトピー性皮膚炎と基本的には同じですが、乳幼児・小児においては特に親子関係が非常に重要です。子供に対して過保護になりすぎて、少しでも湿疹を掻いていると「掻いちゃだめ。」と強くしかったりしたときや、子供が親の愛情に飢えている場合、親のささいな言葉や行動に敏感に反応し、発作的に湿疹を掻いてしまうことがしばしば見られます。そのような状況を認識、理解してもらうためにも医師の役割が非常に重要だと考えます。

円形脱毛症

一言に脱毛症といってもさまざまなタイプの脱毛症があり、症状や原因もそれぞれです。例えば、男性ホルモンが大きく関与していると考えられている男性型脱毛症、自己免疫の関与が考えられている円形脱毛症、そのほか内分泌異常、代謝障害、感染症、膠原病、薬剤などに起因する脱毛症などがあります。しかし、多くのひとがそれらの診断、原因対策なしに自己判断で市販の育毛剤のみにたより、思うような効果があげられていないのが現状です。脱毛症の治療はまず的確な診断と原因対策から始まります。

原因としては、遺伝的素因説、ストレス説、アレルギー説など諸説ありますが、最近では自己免疫説が有力とされています。自然治癒も多い単発型のほかに、多発型、頭髪がほとんど脱落する全頭型、頭髪を含め全身の毛が脱落した汎発型などに分類されます。

治療法

  • 局所免疫療法(SADBE療法、DPCP療法)

    一般的な内服や外用治療などで効果が認められない場合に行う治療です。頭皮に弱いかぶれを繰り返し起こす治療で、難治性脱毛症や広範囲の脱毛症に対する有効な治療法です。安全性も高く小児の患者さんにも行えます。人によってはかぶれや全身性の皮膚炎を起こすこともありますので注意が必要です。

  • グリチロン、セファランチン、抗アレルギー剤などの内服

  • フロジン液、ステロイドの外用

  • 液体窒素冷却療法

    液体窒素によって頭皮を刺激して血行を改善させる方法です。

  • 紫外線療法(PUVA、ナローバンドUVB)

    有効な治療法ですが、長期照射による発癌性の問題もあります。より新しいターゲット型紫外線治療器(エキシマライト)は、PUVAやナローバンドUVBに比較して発癌性の危険性も低く良好な治療結果も得られています。

  • ステロイド局所注射

    皮膚萎縮などの副作用もあるため、難治性の小さな脱毛部に行います。

  • ステロイド内服

    長期投与により全身性の副作用もあるため、他の治療が効かない難治例や重症例に行います。

  • ステロイドパルス療法

    発症して間もない患者さんで、なおかつ急激に進行する場合に入院して短期間に多量のステロイドを点滴する方法です。短期間の投与なのでステロイドの副作用は上述のステロイド内服に比較して少ないといわれています。

  • JAK阻害剤

    免疫システムの一部をピンポイントで効率よく抑制することで脱毛を抑える作用があり、脱毛範囲50%以上、過去6カ月程度髪に自然再生が認められない難治性円形脱毛症患者さんに投与される内服薬です。

治療例

  • 治療内容

    SADBEを2週間に1回頭皮に外用して治療開始6ヶ月後

  • 費用

    総額約12,000円(税込み)

  • リスク・副作用

    かぶれ、蕁麻疹、全身性の湿疹

ウイルス性イボ(尋常性疣贅)

ヒト乳頭腫ウイルスによる感染症で、全身に出現しますが、特に手足に多くみられます。表面がでこぼこしていて小さな多数の黒い点が見えることもあります。自然に治癒することもありますが、通常は徐々に増大したり増加したりして長期に存在します。

治療法(痛みのないあるいは軽い治療)

  • サリチル酸

    角質を軟らかくするサリチル酸を付着させ数日後に削る方法。ずれたりしなければ痛みがなく、自宅で治療可能です。

  • グルタールアルデヒド

    組織蛋白を凝固させ、ウイルスを殺菌する方法。1日数回自宅でイボに塗りながら削ります。痛みはありませんが、体質によってはかぶれを起こす危険性があります。

  • ビタミンD3軟膏

    本来は尋常性乾癬の薬ですがイボに有効なこともあります。

  • フェノール外用

    タンパク質を凝固し、強い腐食作用のある薬剤のため灼熱感や赤み、色素脱失がみられることがあります。

  • モノクロロ酢酸

    腐食作用のあるモノクロロ酢酸を2~3週間おきに塗布しイボを腐食、壊死させる方法です。

  • イミキモド外用

    別の種類のイボの治療薬ですが、こちらのイボにも効果があったとの報告があります。赤みや皮膚剥離が生じることがあります。

  • 局所免疫療法

    わざとかぶれを起こしてイボを縮小させる治療です。局所の赤み、かゆみ、ときに全身性のかゆみや蕁麻疹が生じることもあります。

  • ヨクイニン内服

    ハトムギからつくられる漢方薬で保険がききます。数ヶ月内服し、ウイルスに対する免疫力を高めると考えられています。

  • シメチジン内服

    通常胃薬として処方される薬ですが、免疫力を高める作用や抗腫瘍効果も有すると考えられています。

治療法(痛みを伴う治療法)

  • 液体窒素冷凍療法

    最も一般的な方法で、マイナス196℃の液体窒素により細胞を凍らせる治療です。当日から数日間痛みが持続するのが欠点です。1〜2週間に1回のペースで複数回の治療が必要です。

治療法(その他)

水イボ(伝染性軟属腫)

水イボは子供に非常に多い皮膚病で、伝染性軟属腫ウイルスの感染によるものです。
主にプールなどで水イボのひとの肌が触れたり、ビート板を介して感染します。体のいたるところに出現し、みずみずしい光沢のある数mmから5mmのボツボツが数個から、多い場合数十個みられることもあります。
よく見ると中央が少しくぼんでいるのが特徴です。

最も一般的な方法は、特殊なピンセットでミズイボをつまんで取る治療法です。ウイルス性イボ(尋常性疣贅)という別のイボと同じように、液体窒素冷凍療法を行うこともあります。いずれも極めて有効な治療法なのですが、痛みを伴うことが欠点です。

ミズイボが自然に治ることも多い病気であることから、放っておいてもよいと言う考えの先生もいらっしゃいますが、状況に応じて柔軟に治療方針を決定する必要があると思います。もともとアトピー性皮膚炎や乾皮肌の子供は、水イボに感染すると湿疹が悪化したり、引っ掻いたりしているうちに伝染性膿痂疹(とびひ)を引き起こしたりすることもあります。また、他の子供たちにうつしてしまう可能性もあるので、施設によってはプールにも入れてもらえないこともあります。さらにその子供の性格なども考慮して、放置するのか、除去するのかを柔軟に判断する必要があります。
(治療時の痛みを軽減させるための麻酔テープを貼ってからの治療も可能ですので、ご相談ください。)

とびひ(伝染性膿痂疹)

夏に多い病気で、擦り傷、あせも、湿疹、虫刺されの部位に、ブドウ球菌や溶連菌が感染して、皮膚がじゅくじゅくしたり、水ぶくれができたりします。接触によって感染し、あっという間に飛び火のように広がることが名前の由来です。抗生物質を塗り、ガーゼで覆い治療しますが、重度の場合は抗生物質を内服したり、かゆみを伴う場合はかゆみ止めの薬を内服する場合もあります。特に、アトピー性皮膚炎など肌が弱い人は、重症化して発熱などの全身症状を伴うこともありますので特に注意が必要です。

治療上の注意点

  • 皮膚を清潔に保つことが「とびひ」ケアの基本です。
    1日1回は石鹸を使ってシャワーを浴びましょう。入浴やプールは控えてください。

  • 「とびひ」の子供が使ったタオルは、他の子が使わないように注意しましょう。

  • 虫刺されやあせも、湿疹は適切にケアして早く治しましょう。

  • 爪はいつもきちんと切っておきましょう。

  • 鼻の中をいじらないようにしましょう。

  • お医者さんが「薬をやめていい」というまではしっかり治療を続けましょう。良くなったと思って薬をやめると再発することがあります。

食物アレルギー

アレルギーとは、花粉やホコリ、ダニなどの異物が体内に入ると、それを除去しようとして体が過剰な反応を起こすことです。しかし体にとって必要な食べ物を摂取した時にも同様な反応が生じることがあります。症状としては、じんましんが出たり、口の中がイガイガしたり、重症の場合は、嘔吐や呼吸困難、意識消失を起こしたり、最悪の場合、生命にもかかわることもあります。日本人全体で1〜2%、乳児で10%、小学生以下で1〜3%ほどの患者さんがいると考えられています。ただし、成長とともに自然に治癒する場合が多く、3歳までに半分が、小学生になるまでに8〜9割の子供が治癒するといわれています。また、食物アレルギーは、アトピー性皮膚炎や喘息との合併も多いことが特徴です。

アレルギーの対策

まず原因となる食物を特定して、その原因食物を除去することです。
問診や血液検査、皮膚アレルギー検査、食物除去試験や食物負荷試験などを行い、総合的に判断して原因食物を特定します。血液検査で陽性反応が出た食物をできるだけ除去しようとされている方もいらっしゃいますが、実際は原因食物でないことも多く、あくまで総合的に判断することが大切です。不必要な厳しい除去食は、栄養面で悪影響を与え、子供の成長障害が生じることもあるので注意が必要です。
また、近年では、アレルギーを起こさない量の原因食物を少しずつ増量しながら摂取することで体を慣れさせる経口免疫療法も行われるようになりました。

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